男は重いドアを開け、いつもの席に座った。
「マスター、今日はブルームーンをもらうよ」
「おや、珍しいものをご注文ですね」
「まぁね」
「どこかでお飲みになったのですか?」
「いや、今日が初めてだよ」
「おや」
「相手が飲んでたんだよ、こないだ一緒にいた子がね」
「ほう。今どき珍しい洒落た子ですね」
「飲んですぐに帰ってしまったよ。ぼーっとしてたらそこのマスターがカクテルの由来を話してくれたさ。恥ずかしくて僕もすぐ帰ったけどね…(苦笑)」
男は窓に浮かぶ満月を眺めながらただただグラスを揺らしていた。