お話イラスト」タグアーカイブ

2020年08月20日  最終更新日:2021年04月21日

海のそこ(お話イラスト)

ねこは海のそばで育ちました。
お昼になるといつも海辺に遊びに行きました。

ねこには一匹の魚の友達がいました。
彼はいつも魚に海の話を聞いていました。

「やあ。今日もまたお話を聞かせてくれよ。」

「やあねこくん。いいよ。今日はなんのお話がよいかな」

「そうだなあ。じゃあ、海の一番下のことを教えてよ。一番下はどうなってるんだい?」

「一番下か。僕も本当の一番下は見た事がないのだけどこの辺の一番下ならわかるよ。
暗くて静かで少し寒くて、平べったい魚や貝やひとでが沢山いるのさ」

「そうなんだ。本当の一番下ってのはなんだい?」

「本当の一番下はもっともっと深いところにあって、僕らでは行く事が出来ないんだ。
そこにはそこだけで暮らす魚がいて、真っ暗で何も見えないらしいんだ」

「何も見えないのに暮らせるのかい?」

「目が見えなくても暮らす方法があると聞いてるよ」

「そうなんだね… 今日も楽しい話をありがとう」

ねこは真っ暗な海の中の事を思い浮かべながらいつもの昼寝の場所に向かいました。

海のそこ

2020年08月08日  

Blue Moon(お話イラスト)

Blue Moon

Blue Moon

男は重いドアを開け、いつもの席に座った。

「マスター、今日はブルームーンをもらうよ」

「おや、珍しいものをご注文ですね」

「まぁね」

「どこかでお飲みになったのですか?」

「いや、今日が初めてだよ」

「おや」

「相手が飲んでたんだよ、こないだ一緒にいた子がね」

「ほう。今どき珍しい洒落た子ですね」

「飲んですぐに帰ってしまったよ。ぼーっとしてたらそこのマスターがカクテルの由来を話してくれたさ。恥ずかしくて僕もすぐ帰ったけどね…(苦笑)」

男は窓に浮かぶ満月を眺めながらただただグラスを揺らしていた。

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絵の完成の方が先だったのですが絵に合うお話…ということで「ブルームーン」を題材にしました。

カクテルの意味については是非、調べてみてください^^

2020年07月29日  最終更新日:2021年04月21日

やまなし 宮沢賢治(お話イラスト)

そのとき、トブン。
黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうっとしずんで又上へのぼって行きました。キラキラッと黄金のぶちがひかりました。

『かわせみだ』子供らの蟹は頸をすくめて云いました。
お父さんの蟹は、遠めがねのような両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云いました。

『そうじゃない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行って見よう、ああいい匂いだな』
なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂いでいっぱいでした。

三疋はぼかぼか流れて行くやまなしのあとを追いました。
その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るようにして、やまなしの円い影を追いました。
間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焰をあげ、やまなしは横になって木の枝にひっかかってとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。

『どうだ、やっぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂いだろう。』
『おいしそうだね、お父さん』
『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰って寝よう、おいで』

親子の蟹は三疋自分等の穴に帰って行きます。
波はいよいよ青じろい焰をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいているようでした。

やまなし

2020年07月20日  最終更新日:2021年06月03日

望遠鏡(お話イラスト)

黒猫の唯一の趣味は望遠鏡で夜空を眺める事でした。
来る日も来る日も、祖父からもらった骨董の望遠鏡で夜の空を眺めていました。
年代物であまりきれいに見える代物ではありませんが彼にとっては「ぼんやりしている」方が沢山の想像がふくらんで好都合。

「あの星は今日は緑色に見えるなぁ。春が訪れて草木が茂っているのかな」

「こちらの星は赤く光っているぞ。国と国がけんかをしているのかもしれない」

眠りにつく前の数時間、さまざまな空想にふけりながらその続きを夢で見るのが彼の毎日の楽しみでした。

望遠鏡

望遠鏡 お話

2020年07月10日  最終更新日:2020年07月29日

虹(お話イラスト)

虹のイラスト


「今日はどこだい?」
「あぁ、今日は東の山のふもとだときいてるよ」
「あそこはまだ少し寒いかもしれないね。いつもより一枚服を多く持っていこう」
「カッパはもったかい?」
「ああ、ちゃんと持ってるよ」

あつまるやいなや七人はいつも通りの会話を交わし、いつも通りに準備をととのえて今日の依頼先へと向かいました。

「雨はまだかな」
「雲はまだもう少し西の方にいると思うよ」
「そうか、じゃあそれまで少し花でも見てこよう」

そう言って緑の子が木々の中へ向かおうとした時、ぽつりと1つ雨が落ちてきました。

「あれ、少し早いけど降ってきたね。カッパカッパ」

そう言って皆一斉にカッパを着込んで西の空が明るくなり始めるのを待っていました。

2020年07月01日  最終更新日:2021年03月23日

双子の星:宮沢賢治(お話イラスト)

双子の星(宮沢賢治)

双子の星

(引用)“天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。

あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。

このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向かい合っています。

夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合わせ、一晩銀笛を吹くのです。
それがこの双子のお星さまの役目でした。”(引用終わり)

お世話になった方にお礼として絵をお贈りしようと思って描いた作品。

以前から「目的があると描く絵の質が変わりますね」と言われる事があったのだけど、これもきっと「お贈りする」という理由の元、どこか自分の意識外で描き進められたのだと思います。
結果的にとても好きな絵になりました。

この絵から良くも悪くも色々な悩みが生まれ、同時に新しい旅が始まりました。